22. インドネシア土地法・土地担保法制度概要

第1章 インドネシアの土地法制

第1部 インドネシアの土地法制の特徴

インドネシアの現在の土地法制は、1960年の「土地基本法」(Undang Undang Pokok Agraria、Basic Agrarian Law)を基礎にしているが、その他慣習法(Hukum Adat)の適用もあり、日本の法制と比較すると、次の点に際だった特徴がある。

  1. すべての土地は国家が支配・管理する権限(Hak Menguasai Negara)を持っており、個人・企業は、国家から土地を使用する権利を与えられるにすぎない。
  2. 土地になんらかの権利を取得した者は、公共の福祉の為に利用する責任を負っている。従って、なんらかの権利を持ちながらこれを放置したりし公共の福祉に合致しない場合には、この権利は消滅する。
  3. 国家から与えられる土地の権利には、いくつかの種類があり、それぞれ権利の内容(権利の期間・取得することが認められる者等)や取得手続が異なる。
  4. 土地基本法に反しない限り、地方・地域の非成文の慣習法(Hukum Adat)が適用される。
  5. 登記制度はあるものの、インフラの未整備等の事情から実際の登記が全土で行われているわけではなく、特に地方においては未登記の土地が数多く残されている。

これらの内、「登記」については、何らかの権利が登記されていてもそれが確定的に真正な権利者の真

正な権利を表しているとして登記だけを頼りにして取引を進めるわけにはいかないという問題がある。(日本の法律用語に倣って言えば、登記に「公信力」はないとされている。)なお、 1997年7月8日政令第24号で、登記から5年経過後は権利関係について争うことは認められないとされた。これにより、登記を受けた権利保有者はより強い法的保護が与えられることになった。ただし、この政令が現実にどのように適用されどのような効果を持つかについては様子を見る必要はある。

また、相続に関するイスラム法(家族法)の特異性にも注意が必要である。即ち、イスラムでは、相続人は被相続人の財産の総てについての相続権を有するとされ、例えば、被相続人が現金 1,000千ルピアと1,000千ルピアの価値のある不動産とを残した場合で相続人が2名のとき、片方は現金のみ、他方は不動産のみを相続するというやり方は認められず、相続人は各々、現金の半分と不動産の半分とを相続する権利があるとされる。また、インドネシアでは相続税が課せられないので、この意味から必ずしも相続分を早期に確定させる必要がなく、相続財産(土地の権利等)が長期間、相続人及びそのまた相続人により共有された状態になっている場合もあり、真正な権利者を突き止める為には、家系図をベースに時間を掛けて探し回ることが必要になってくる場合があることを覚悟しておく必要がある。

さらに、権利構造が多層・複層構造になっていて、例えば、外資企業( PMA)が取得することが多いHak Guna Bangunan(建築権)にしても、国家の土地の上に直接取得することが一般的だが、法理論的には国家の土地の上に地方政府が有するHak Pengelolaan(管理権)の上に取得したり、さらには理論的にはこの管理権の上に第三者が有する所有権の上に取得することもありうるので、理解しにくいところがある。(イメージ図参照)しかし、実務的には、こうした多層構造の上に権利を取ることはせず、途中の権利を放棄・抹消したうえで、原権利の上に権利を取得するようにしている。

以上のとおり、土地(及び建物)そのものを目的とした不動産の賃貸事業や工業団地の造成・販売事業はもとより、インドネシアにおいて事業を行う場合には事業用地を取得したり、事業資金借入の為に取得した土地を担保に入れるといったことが必要になってくるので、その土地法制度の理解が不可欠である。

「すべての土地は国の支配・管理に服する」という土地基本法のこの特徴は同法成立時に初代大統領スカルノのもと、共産党が勢力を伸ばしていたことと無関係ではないと言われている。実際、所有権( Hak Milik)以外の権利には、有効期間、用途等に制限があり、法律条文からすると私有財産権というにはその内容は非常に不安定な印象を否定できない。しかし、同法成立後30年以上経過した昨今、建築権(HGB)や事業権(HGU)等の場合で有効期間が満了した事例があるが、ほとんどの場合において問題なく有効期間の延長が認められている模様であり、実際のところは土地の権利は制限付きながらもそれなりに私有財産としての財産・交換価値があると考えて問題ない。

 

インドネシアで外資企業(PMA)としてその立地を考える場合、その事業内容、立地予定地が地方政府の土地開発・利用計画に従ったものであることをまず確認する必要がある。特に当該外資企業(PMA)が製造業を目的として設立されるときは、その立地予定地の県又は市に工業団地があり、これが利用可能な状態であれば、その工業団地内に立地することをBKPM(投資調整庁)より求められ、工業団地外に立地する場合には技術的・経済的な観点から、その理由を説明する必要があるとされる。(1994年投資調整庁令第15号)




第2部 土地に対する権利の形態

インドネシアの土地制度は、 1960年以前は、オランダ統治時代に導入された制度に基づく欧風土地(Tanah Eropa)と呼ばれる土地とインドネシアの慣習法(Hukum Adat)が適用される土地(Tanah Indonesia)が併存していたが、1960年法律第5号「土地基本法」(Undang-Undang Pokok Agraria / Basic Agrarian Law)により一元化された。その後、この土地基本法を基礎に土地法制度が発展してきているわけだが、土地基本法に反しない慣習法は引き続き適用が認められ、また、土地の権利関係の登記もジャカルタ地域を除きあまり進んでいないことから、土地の権利関係の確定・取得には専門家に十分相談することが大切である。

土地の権利の確定

1997 年7月8日の政令第24号による権利の確定の容易化へ一歩を踏み出しているが、それでも登記があればまだしも登記のない土地について権利を取得しようとするときは、場合によっては数世代前まで遡って土地の歴史とすべての相続関係を調査する必要が出てくる。

土地基本法に国家が全国土に対して最高管理権(Hak Menguasai Negara)を持つことが規定されている。(第2条)これは、慣習法に基づく原則である「すべての土地に関する権利は村落等の共同社会の支配権に服する」という考え方を全国に適用したものと言われる。従って、土地に関する権利を取得しようとするときは基本的に国の許可が必要とされ、かつ権利を取得したもののその目的に添った使用をしないで放置したりしたときはその権利は消滅するとされている。(第273440条)

土地に対して取得できる権利のうちで土地基本法に規定されているのは次のとおりである。

Hak Milik(所有権) 土地基本法第20-27

Hak Guna Usaha(事業権) HGU 28-34

Hak Guna Bangunan(建築権) HGB 35-40

Hak Pakai(利用権) HP 41-43

Hak Membuka Tanah(開墾権) 第46

Hak Memungut Hasil Hutan(森林産出物採取権) 第46

Hak Sewa(貸借権) 第44-45

Hak Usaha Bagi Hasil(小作権) 第53

Hak Gadai(土地質権) 第53

Hak Menumpang(滞在権) 第53

Hak Sewa Tanah Pertanian(農地貸借権) 第53

これらの権利はその取得に際し国家の許可を取得する必要があるが、最後の 5種類の権利(貸借権、小作権、土地質権、滞在権、農地貸借権)は当事者の間の契約だけで権利を移転・取得することができ、この許可は不要である。

これらの権利の内では Hak Milik(所有権)が土地に対する権利土地基本法の拡大解釈により住居地にも所有権を取得することが可能になっている。また、権利の存続期間は無限である。なお、所有権は、インドネシア国籍を有するもの、宗教団体・国立銀行等省令で特に定めのある特殊法人だけが取得することができる。

外資企業( PMA)がインドネシアで事業を行おうとする場合に取得可能な権利には、Hak Guna Bangunan(建築権)、Hak Guna Usaha(事業権)及びHak Pakai(利用権)の三種類がある。これらの権利の内容は次のとおりである。なお、最近、外国個人、外国法人の在インドネシアRepresentative officeが条件・制限付きながら、利用権を取得することが認められるようになった。

また、土地基本法に規定された権利ではないが、 Hak Pengelolaan(管理権)と呼ばれるものがあり、これは、通常、地方政府・国有企業に対し、工業団地、空港、低所得者用住宅建設等の政府の計画に基づく一定のプロジェクトの為に与えられる権利である。これを保有する地方政府・国有企業は、その権利の上に所有権、建築権または利用権を第三者に与えることができるとされており、この権利の上に建築権等の権利を取得することが行われる。(11頁のイメージ図参照)

1 Hak Guna BangunanHGB(建築権)

建築権は、建物を建築しそれを所有する場合に取得可能な権利である。外資企業が取得するのはほとんどの場合においてこの建築権である。建築権の取得が認められるものは、インドネシア国籍を有するもの(二重国籍者を除く)及びインドネシア法により設立されインドネシア国内に所在する法人である。外資企業も取得が認められる。その概要は次のとおりである。なお、建築権の取得手続は第IV章にまとめた。(25頁)

a. 建築権(HGB)を取得することができる土地

建築権は、国有地について取得することが認められるほか、地方政府・国有企業が管理権を有する土地及び第三者が所有権(Hak Milik)を有する土地についてこれらの権利の上に取得することができる。「管理権・所有権の上に建築権を取得する」というのは少々ややこしいが、要は地方政府・国有企業または所有者からその管理・所有する土地について建築権を取得するわけである。

建築権を取得しようとする山地が山林地区に指定されている場合には、地方政府宛に申請を行い、その土地を山林地区から外す旨の林野省の決定書を取得しなければならない。

また、第三者が正当な権限に基づいて所有している作物・樹木・建物が存在する場合には、その者に対して保証金を支払わなければならない。補償の金額は、建築権を取得しようとするものが当該第三者と話し合って決定するとされている。

なお、管理権の上の建築権は、空港・交通・住宅開発等の比較的大規模なプロジェクト実施の為に当該プロジェクトの開発業者が地方政府等の管理権保有者から付与されることがある。また、所有権の上に建築権を取得することは、1996年政令第40号で初めて認められたが、まだ実例はほとんどなく、従来の方式(所有権をいったん放棄させて国有地とした上で新たに建築権を取得する)に依っているようである。

b. 建築権(HGB)の存続期間

国有地(Tanah Negara)または管理権(Hak Pengelolaan)上の建築権の有効期間は最長30年とされ、さらに20年間の更新、また一定の事由を満たす場合には再更新も可能であるとされている。(1996年政令第40号、第25条)ただし、所有権(Hak Milik)上の建築権(HGB)の有効期間は最長30年とされ、更新はできないとされている。(同政令、第29条)また、建築権の更新は次の条件を満たしておく必要がある。

・ 建築権付与の条件・性格・目的に従って土地が適切に運営・管理されていること。

・ 権利保有者が建築権付与の際に課せられた条件を守っていること。

・ 権利保有者が建築権を取得できる資格を持つ者であること。

・ 土地が当該地方の区画計画(Rencana Tana Ruang / Regional Special Layout Plan)に合致していること。

・ 更新の申請書が有効期間満了の2年以上前に提出されていること。

・ 管理権上の建築権の場合には、管理権保有者の承諾があること。

c. 建築権(HGB)保有者の義務

建築権保有者は、取得料を支払うこと、権利取得許可の際に課された条件を遵守すること、建築権消滅時に権利証(Sertipikat)を返還することの義務と土地及び土地上の建物の管理義務を負う。

建築権保有者が義務を果たさない場合には、建築権は抹消され、国有地上の建築権の場合には、建物・工作物を撤去の上、土地は国に返還され、また、管理権もしくは所有権の上の建築権の場合には、建築権が消滅し、もとの権利者に土地の占有が返還される。

d. 建築権(HGB)の譲渡・担保権設定

建築権は、売買・交換・現物出資・贈与により譲渡することができる。相続も可能である。なお、管理権または所有権上の建築権の譲渡には、それぞれ管理権保有者・所有権保有者の承諾書が必要とされている。また、建築権には土地担保権を設定することができる。ただし、他の権利(事業権・利用権)についても同様であるが、売買等が可能となったものの現在までのところ殆どの場合、従来の方式(譲渡にあたっては一旦権利を放棄させ、さらの状態にした上で取得する)で行われているようである。

e. 建築権(HGB)の更新手続

建築権の期間更新はKantor Wilayah BPN(第一級自治体(州 / Province)レベルの土地庁の事務所)に対して次の申請書類を提出することにより行う。

・ 申請書

・ 外資企業(PMA)の場合その設立認可書(SPPP)

・ 権利証(Sertipikat)

・ 最新の登記内容確認書(Surat Keterangan Pendaftaran Tanah / SKPT)

・ 固定資産税(PBB)の納税済証

・ 当該土地の利用目的に変更のない旨の申請者作成の文書

2 Hak Guna UsahaHGU(事業権)

事業権は、農業・農園業・水産業・養殖業・牧畜業を営む場合に取得可能な権利である。事業権の取得が認められる者は、建築権(HGB)の場合と同様である。ただし、建築権と違って用途が限定されているところが一般的には利用しにくい。また、5ha未満または25ha超の土地についてはこの事業権は認められない。

a. 事業権(HGU)を取得することができる土地

事業権は国有地(Tanah Negara)について取得することが認められる。ただし、事業権を取得しようとする土地が山林地区に指定されている場合や第三者が正当な権限に基づいて所有している作物・樹木・建物が存在する場合には、建築権の場合と同様の手続を踏む必要がある。

b. 事業権(HGU)の存続期間

事業権の有効期間は最長35年とされ、次の条件を満たす場合には、最長25年間の更新及び再更新が可能であるとされている。

・ 事業権付与の条件・性格・利用目的にしたがって土地が適切に運営・管理されていること。

・ 権利保有者が事業権付与の際に課された条件を守っていること。

・ 権利保有者が事業権を取得できる資格を持つものであること。

・ 更新申請書が有効期間満了の2年以上前に提出されていること。

c. 事業権(HGU)保有者の義務

事業権保有者は、取得料の支払いや権利取得の際の条件の遵守、事業権消滅の際の権利証(Sertipikat)返却義務等、他の権利保有者に共通して課されている義務のほかに、次のような義務を負う。

・ 権利取得者自身が事業権許可の際に認可された事業を営むこと。

・ 許可どおりの事業を営んでいることについて報告をすること。(年一回)

・ 環境保全の為の配慮。

事業権保有者が義務を果たさない場合、事業権は消滅するとされており、その場合、事業権保有者は、土地上の作物・建物を撤去しなければならない。

d. 事業権(HGU)の譲渡・担保権設定

事業権は、売買・交換・現物出資・贈与の方法で譲渡することができる。相続も可能である。また、事業権に土地担保権を設定することもできる。ただし、実際には建築権の場合と同様、売買等の譲渡の方式を取ることは少ないようである。

3 Hak Pakai(利用権)

利用権は、土地の使用が目的であれば取得可能な権利である。利用権は、1996年政令第40号施行前は、建築権よりも一段弱い権利とされていたが、同政令により、より長期の有効期間を設定することができるようになり、また、一定の場合には、土地担保権が設定できるとされ、より建築権に近い、強い権利になってきている。その結果、実体的に建築権に接近してきているが、実務的には、利用権と言うと従来の弱いままの権利が連想される為か、建築権ほどの利用はされていないようである。その有用性は今後の実務ではっきりしていくものと思われる。ただし、外国個人や外国法人の在インドネシアRepresentative Officeも一定の条件・制限の下で取得が認められるので、これらの者には利用価値がある。

a. 利用権(Hak Pakai)を取得することができる者

利用権は、建築権・事業権の場合と共通する者に加え、次の者が取得することが認められる。

・ 政府各省、省ではない政府機関、地方政府

・ 宗教・社会団体

・ 外国個人や外国法人の在インドネシアRepresentative Office

・ 外国政府代表部・国際機関代表部

b. 利用権(Hak Pakai)を取得することができる土地

利用権は、建築権の場合と同様、国有地(Tanah Negara)、管理権(Hak Pengelolaan)及び所有権(Hak Milik)の上に取得することが認められることに加え、建築権の上にも取得できるとされている。ただし、所有権の上に取得する利用権には権利証が発行されず、国有地や管理権の上に取得する利用権と性格はかなり異なり、「Note on the Respective Hak Milik Certificate」しか発行されないようである。ただし、このNoteはそれなりに効力があり、所有者が変更した場合にも新所有者に対して権利を主張し対抗することができるとされている。また、利用権を建築権の上に設定することは明文上は認められていないが、建築権を持つ者との「契約によるLease」は可能とされいる。(1996年政府規則第41号)この契約が土地公証人(PPAT)によって作成された場合には、建築権の登記簿・権利証にもその利用権が設定されている旨が記載され(所有権上に設定された利用権の場合と同様)、その利用権を第三者(含、建築権が譲渡された場合の譲受人)に対抗することができる。

c. 利用権(Hak Pakai)の存続期間

利用権の有効期間は最長25年とされ、国有地(Tanah Negara)及び管理権(Hak Pengelolaan)上の利用権の場合は、さらに20年間迄の更新が可能とされている。更新には次の条件を満たすことが必要である。(これらの条件は建設権・事業権の更新にも共通である。)

・ 利用権付与の条件・性格・目的に従って土地が適切に運営・管理されていること。

・ 権利保有者が利用権付与の際に課せられた条件を守っていること。

・ 権利保有者が利用権を取得できる資格を持つ者であること。

・ 更新の申請書が有効期間満了の2年以上前に提出されていること。

・ 管理権上の利用権の場合には、管理権保有者の合意があること。

また、所有権上の利用権の有効期間は最長25年とされるが、新規に利用権をもう一度取得することは可能である。

d. 利用権(Hak Pakai)保有者の義務

利用権保有者の義務は建築権・事業権の場合と同様である。具体的には次のとおり。

・ 取得料を支払う義務

・ 権利取得許可の際に課された条件を遵守する義務

・ 利用権消滅時に権利証(Sertipikat)を返還する義務

利用権保有者が義務を果たさない場合には、利用権は抹消され、国有地上の利用権の場合には、建物・工作物を撤去の上、土地は国に返還され、管理権・所有権上の利用権の場合には、利用権は消滅し、もとの権利者に土地の占有が返還される。

e. 利用権(Hak Pakai)の譲渡・担保権設定

利用権は、売買・交換・現物出資・贈与により譲渡することができる。相続も可能である。ただし、管理権・所有権上の利用権はそれぞれ管理権保有者・所有権保有者が約定書で譲渡を承諾することが条件である。なお、建築権上の利用権の譲渡可能性は明文の規定がなくはっきりしない。

担保権は国有地及び管理権の上の利用権については設定が可能であるが、所有権上の利用権に土地担保権を取得することは認められない。なお、建築権上の利用権の担保取得の可否は明文の規定がなくはっきりしない。


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